先月のコラムでは「正解はひとつではない」というお話をしました。
実は量子力学の世界で有名な二重スリット実験によれば、ミクロの世界の素粒子は、観測される前には定まった姿を持たず、さまざまな可能性が重なり合った状態にあります。そして観測者がどう関わるかによって、その姿は粒にも波にも変わるといいます。つまり、唯一絶対の客観的な現実が最初から存在するのではなく、観測する側の関わり方そのものが現実を決めているのです。
この構造を文学と映画で見事に描いたのが、芥川龍之介の『藪の中』と、それを原作とする黒澤明監督の映画『羅生門』です。ひとつの殺人事件をめぐり、盗賊、妻、死者の霊がそれぞれ異なる証言をします。どの証言も、語る本人にとっては確かな現実です。それぞれの利害や思いというフィルターを通して同じ出来事を見た瞬間、まったく異なる現実が立ち上がってしまいます。絶対的なひとつの現実はどこにもなく、見る人の数だけ世界が存在するのです。これはまさに、量子力学が示す観測問題と同じ構造だといえます。

自分の内面が、現実の見え方を変える
人はそれぞれ、自分にとって都合のよい現実をつくり出してしまうものです。けれども、自分の中にある認めたくない感情や思い込みに気づき、それも自分の一部として受け止められれば、こわばっていた現実の見え方は少しずつほぐれていきます。
量子力学では「万物はエネルギーの振動、つまり周波数でできている」と考えます。この考え方に基づくと、自分自身の内側を恐れから調和へと整えることで、目の前に現れる現実そのものが変化していくと考えられます。外の世界を変えようとする前に、まず自分の内側のチューニングを見直すことが大切なのです。
受け入れと感謝が、世界を反転させる
もし意識が現実をつくるとしたら、一番おすすめなのは、起きることをそのまま受け入れ、感謝することです。映画『羅生門』の結末では、人々のエゴのぶつかり合いに絶望しかけていた旅人の前で、ひとりの木こりが捨て子を引き取るという善い行いを見せます。その瞬間、羅生門を覆っていた激しい雨が上がり、美しい夕日が差し込んできます。これは、木こりの意識が自分本位な思いから無条件の愛へと変わったことで、世界そのものが反転したことを象徴する場面だといえるでしょう。
私たちは日々、目の前の出来事に良い悪いの判断を下しがちです。しかし、その判断こそが、好ましくない現実ばかりを強く意識させ、固定化させてしまいます。すべての出来事を人生に必要なプロセスとしてそのまま受け入れ、今あるものに深く感謝する。この姿勢に切り替えた瞬間、内側の状態は不足から充足へと変わっていきます。
私たちは、マスメディアに登場する多くの「評論家」のように、未来に対する不安や恐れを指摘し、世の中に批判的な人こそ知的で意識レベルが高いと勘違いしがちです。しかし本当に意識レベルの高い人とは、未来の可能性を信じ、明るい兆しに目を向けることで世界をより良くしようとする人だと思います。私たちの意識が現実をつくり出すのです。自らの意識で、世界を、そして未来を、より豊かで明るいものにしていきたいですね。
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