経営における三つの視点

2026年05月14日

先月のコラムで、人体をどのように捉えるかによって医療の在り方が大きく変わるというお話をしました。興味深いことに、企業経営もまったく同じ構造をしています。医療が「化学」「生物学」「物理学」という三つの視点を統合することで進化していくように、企業経営もまた、複数の視点を重ね合わせることではじめて、その全体像が見え、大きく進化、発展していくのです。

利益最大化のシステムとしての企業――科学的アプローチ

近年、MBAをはじめとするビジネス教育の場で盛んに取り上げられてきたのが、科学的な経営手法です。企業を「さまざまな経営資源が集積したシステム」として捉え、その資源を最大活用することによって利潤の最大化を目指すアプローチです。

データ分析やKPI、財務指標を駆使し、効率性と再現性を高めるこの手法は長らく経営の主流であり、経営コンサルやファンドが優秀なプロ経営者を輩出しながら、多くの企業再建や成長を実現してきました。投資家の存在感が増す現代においても、その有効性は依然として高く、科学的経営は、経営を「再現可能な技術」へと昇華させた点で大きな功績を残しています。

運命共同体としての企業――人間的アプローチ

しかし一方で、企業を顧客・社員・取引先・地域住民といったステークホルダーによる「運命共同体」として捉えることも不可欠です。

信頼関係や組織の歴史、働く人々のモチベーションといった非数値的な要素が、経営の成否を大きく左右します。同じ戦略でも、それを実行する人間の状態によって結果は大きく変わる。この現実を直視することが、人間的アプローチの出発点です。人材の流動化と価値観の多様化が進む現代において、「会社が個人の意味や価値観に応える」姿勢はもはや必須となっており、このアプローチの重要性はますます高まっています。

存在意義を問われる企業――「アート」が導くこれからの経営

そして三つ目が、理念的アプローチです。「この企業は何のために存在するのか」「社会にどのような価値を提供するのか」という根源的な問いに向き合う視点であり、ここで鍵を握るのが「アート」の力です。アートとは装飾やデザインではなく、「何を価値あるものと定義するか」を問い、それを人の心に届く形で表現する力そのものです。

物質的な充足と情報の最適化が行き渡った現代では、品質や機能だけでは人々の選択を決定づけられなくなっています。「それにどんな意味があるのか」「自分の人生においてどんな価値を持つのか」という内面的な基準こそが、選択を左右する時代になりました。

これからの経営に求められるのは、三つの視点の統合です。科学的に正しく運営されることを前提としながら、人間的なつながりを育み、さらに社会的・理念的な意味を明確に打ち出す。医療が物質から生命へ、生命からエネルギーへと理解を拡張してきたように、経営もまた「効率」から「人間」へ、そして「意味」へと進化していく。その羅針盤として、「アート」の果たす役割はますます大きくなるはずです。

多根幹雄
執筆者
多根幹雄
株式会社パリミキホールディングス
代表取締役会長
スイス、ジュネーブに1999年から9年間駐在し、グループ企業の資金運用を担当してきました。その間、多くのブライベートバンクやファミリーオフィスからの情報により、世界18カ国100を超えるファンドマネージャーを訪問。実際投資を行う中で、良いファンドを見極める選択眼を磨くことが出来ました。また当時築いたスイスでのネットワークが現在の運用に大いに役立っています。また、大手のメガネ専門店チェーンの役員として実際の企業の盛衰も経験し、どんな時に組織が良くなり、また悪くなるかを身をもって体験しました。そこから、どんな企業やファンドにも旬や寿命があるというのが持論です。その為、常に新しいファンドを発掘し、旬のファンドに入れ替えを行うことで、長期で高いパフォーマンスを目指しています。

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