日本的ファミリーオフィスの考え方 第3回(最終回): 新しい日本的ファミリーオフィスの提案 ――三方よしの思想×世界水準の仕組み

2026年09月15日

このシリーズでは、欧米と日本、それぞれのファミリーオフィスの礎となった思想を辿ってきました。

欧米は「一族の永続」を目的に、明文化されたガバナンスと徹底したリスク管理という仕組みを数百年かけて磨き上げてきており、一方の日本は、「家業と社会の永続」を目的に、三方よしや「企業は社会の公器」という世界に誇る思想を育ててきました。

これは、どちらが正しいという話ではありません。

目的の置き方と、それを支える仕組みの成熟度が違うのです。

最終回の今回は、この二つの良いところを融合させた「新しい日本的ファミリーオフィス」の形をご提案します。

 

欧米から学ぶべき三つの仕組み――守りの運用規律、ガバナンス、世代を超えた教育と情報

私たちが欧米のファミリーオフィスから学ぶべきものは、その目的ではなく「仕組み」だと考えています。

 

一つ目は、守りの運用規律です。

彼らは戦争や恐慌、ハイパーインフレを生き延びる中で、「増やすこと」より「減らさないこと」を優先し、国・通貨・資産クラスをまたぐ国際分散と徹底したリスク管理を磨いてきました。

大切なのは、リターンの大きさだけでなく、シャープレシオのように「どれだけブレを抑えて成果を積み上げたか」を測る物差しを持つことです。

値動きがおだやかであれば、相場が荒れても慌てずに続けられ、いざという時にも冷静な判断ができます。これは私たちのファンド運用でも最も大事にしている視点です。

 

そしてこの規律を支えているのが、投資先を選ぶ目です。

欧米では、投資先について自ら調べ、経営者や運用者と直接対話するなど、自分の目で確かめたうえで投資判断を行うことが重視されています。

私たちパリミキアセットマネジメントも、スイスの兄弟会社を通じて、実際に世界中の優れたファンドマネージャーに会って話を聞いたりと、この手法を実践しています。

目指すのは目先の成果ではなく、長い時間をかけて「減らさない」こと、そして戦争や経済危機といった有事に資産を「守り抜く」ことです。

そのうえで、長期で十分な成果を上げられるよう努めることにこそ、ファミリーオフィスの真価があると私たちは考えています。

 

二つ目は、明文化されたガバナンスです。

欧米では、「何のための資産か」「誰に、どう引き継ぐのか」を文書にし、家族で共有し、定期的に話し合います。

前回のブログで述べたように、日本の商家もかつては家訓・家憲という形でこれを実践していました。三井家の宗竺遺書(そうちくいしょ)や近江商人の家訓は、まさに日本版ファミリー憲章だと言えるでしょう。

しかし現代の日本の家庭では、資産について語り合う習慣が失われ、相続の場面で初めて家族が資産と向き合う、というケースがあまりに多いのではないでしょうか。

 

三つ目は、世代を超えた教育と情報です。

欧米の名家は子や孫への金融教育を制度化しており、若いうちから家族会議に参加させて資産と向き合う訓練を重ねています。

そして彼らは、スイスをはじめとする金融の中心地に集まる、質の高い一次情報のネットワークを活用してきました。

資産そのものより、「資産と向き合う知恵」と「信頼できる情報への回路」を継承することが、一族を永続させてきたのです。

 

日本が守るべき「核」――社会と共にあろうとするものこそ、最も長く続く

一方で、富の目的まで欧米に倣う必要はないと考えています。

「一族の繁栄」だけを目的とする資産運用は、日本人の心にはなじみにくい。むしろ、事業と社会の永続を第一に置き、従業員や取引先、地域も含めた「大きな家族」の幸せを願う日本的な思想こそ、これからの時代、世界へ発信すべき価値なのではないでしょうか。

世界最古とされる企業が日本にあり、200年以上続く企業の過半が日本に集中しているという事実は、「社会と共にあろうとするものこそ、最も長く続く」ことの何よりの証明だと思うのです。

 

新しい日本的ファミリーオフィスとはーー私たちが実践できること

そこで私たちが提案したいのが、「三方よしの思想を、世界水準の仕組みで実現する」という形です。

「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」は、近江商人の商いは自らの利益のためだけでなく、世間の役に立ってこそ永続するという考えでした。

すなわち、私たちの富の目的は日本的に――家族だけでなく、従業員や社会と共に永続することを目指す。仕組みは欧米的に――規律ある分散投資とリスク管理、明文化された承継の設計、世代を超えた金融教育と情報網を取り入れる、となります。

かつて三井家が大元方(おおもとかた)という仕組みで実現していたことを、現代の運用技術で再構築するということです。

この「日本の思想×欧米の仕組み」の掛け算こそが、新しい日本的ファミリーオフィスの姿だと考えています。

 

そしてこれは、富裕層だけのものではありません。

どのようなご家庭でも、それぞれの資産や状況に応じて取り入れることができる考え方です。

皆さんも一度、ご家庭で「わが家の資産は何のためか」を書き出してみてください。

一つの国や通貨に偏らず、守りを重視した分散を行うこと。リターンの数字だけでなく、値動きのブレの小ささにも目を向けること。そして、お子さまやお孫さまと、お金と社会の関わりについて語り合うこと。

どれも今日から始められる、立派な「新しい日本的ファミリーオフィス」の実践です。

 

最後に

私たちパリミキアセットマネジメントも、スイスの兄弟会社から得られる質の高い情報を運用に活かしています。

そして、自らの資産をお客様と同じファンドに投じる「あいのり投資」で、リスクを共有しながら運用を続けています。

大きな下落を避け、ブレを抑えながら成果を積み上げる守りの運用も、世代を超えて資産と知恵を繋ぐという思想も、すべてはこの「新しい日本的ファミリーオフィス」の実践にほかなりません。

私たちはお客様と同じ船に乗り、共に歩む運用会社でありたいと考えています。

 

全3回にわたりお読みいただき、ありがとうございました。

世代を超えて資産と知恵を繋ぐお手伝いを、これからもブログやセミナーなどを通じて情報発信を続けてまいります。

皆さまが世代を超えて資産と知恵をつないでいくために、お役立ていただければ幸いです。

また、本編に加えて各回の番外編もお届け予定です。

ぜひ引き続きお楽しみください。

 

前回のブログ↓

日本的ファミリーオフィスの考え方 第2回:日本的ファミリーオフィスの源流 ――「家」の思想と近江商人「三方よし」の哲学

渡邉格史
執筆者
渡邉格史
株式会社パリミキアセットマネジメント
取締役
国内銀行に16年間在籍し(その内半分は米国駐在)、その後、外資系のコンサルティングファームに16年間在籍。銀行員として養った金融知識とコンサルタントとして鍛えられた課題解決力で、少しでもパリミキアセットマネジメントのお客様のお役に立ちたいと考えております。

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