昨今、金利上昇圧力が大きくなっています。これ以上、「異次元の金融緩和」を続けるのは困難な環境になりつつあり、今後の金融政策は、舵取りがとても難しいという見方が大勢です。しかし「皆のコンセンサスは間違う」のが世の常です。私は一般の見方とは違う展開もあり得るのではと期待しています。
そもそも日本政府の借金が膨らんだ背景について、おさらいしましょう。その原因として、バブル崩壊と、その後のデフレ経済の継続があります。まずバブル崩壊で、企業も個人も、持っている株式や不動産の価値が暴落しました。その一方で、借金の価値はそのままだったので、稼いだ分のお金はせっせと借金返済に回しました。このため経済全体では膨大な信用収縮が起こり、経済成長どころか、縮小する流れとなります。さらに、橋本政権以降、財政支出の削減と消費税増税を行い、ただでさえ冷え込んでいた需要をさらに悪化させ、日本はデフレスパイラルに陥ってしまいます。
また、過去30年はグローバリゼーションが拡大した時期でした。その本質は、それまで東(社会主義国)と西(資本主義国)に分かれていた経済の間の壁が無くなり、西側の経済圏にいた約11億人の労働市場に、遥かに賃金の安い東側にいた約30億人が参入してきたことで、中国を中心に発展途上国に世界からの投資が集中します。このため、西側の先進諸国では失業者が増大、賃金が伸び悩むとともに、非正規雇用が激増します。また、安い労働力によって作られた商品が世界にあふれ、先進国の消費財の価格は下落していきます。
また、長期のデフレは、日本円の価値を上昇させることになりました。実際、安倍第二次政権が始まるころには円はドルに対して70円台に突入。日本は競争力を失い、日本企業も中国はじめ、国外への製造拠点の移転をますます加速させました。以上のように、日本政府の財政が悪化して来た背景に「デフレ」「人員余剰」「円高」があったのです。
さて昨今、過去と大きく違う状況が、日本に現れ始めています。それは「インフレ」「人手不足」、そして「円安」です。そうです、財政悪化が拡大してきた時とは真逆の環境なのです。
日本の競争力を回復させるため、円高を是正する目的で行われたのが、黒田前日銀総裁による異次元金融緩和の本当の目的ではなかったかと思っています。結果、異次元金融緩和の継続により日本円の価値は薄まったことと、昨年来の日米の金利格差の拡大で、為替は大幅な円安へと向かいました。日本は、長期にわたる異次元の金融緩和でもたらされた超円安によって、日本企業の競争力が向上すると同時に、インバウンド需要も増大しています。さらに、地政学リスクから、国際的なサプライチェーンが機能しない可能性もあり、国内への投資意欲は回復しつつあります。
また、想像を絶する人手不足から、企業は賃上げはもちろん、一人当たりの資本装備を充実させ、真剣に生産性を上げなければ生き残れません。このため、リスクをとって積極的な設備投資を国内で行うことが、不可欠な時代になるのです。
つまり、民間企業の借入増大(信用創造)と設備投資の進展により経済成長が加速。インフレトレンドも続き、税収をアップさせていきます。また、政府の借入金利がインフレ率よりも大幅に低いため、国の借金も目減りしていくことになります。長期的に考えると、潤沢にある預貯金が投資資金として国内に循環すると同時に、民間の借り入れも増大して信用創造が起こり、経済成長が軌道に乗る。その結果として異次元金融緩和も是正され、税収増により政府の債務も縮小していくのではないか。そんなバラ色のシナリオも考えられるかもしれません。
ただ今のところ、誰もそのような明るい未来を語っていないですね。果たして20年後、30年後はどうなっているでしょうか。今から楽しみです。
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