「生物史最大のイベントに学ぶ企業成長」

2023年03月09日

世界経済、そして金融市場の見通しがなかなか難しい時代です。新型コロナに始まり、ロシアのウクライナ侵攻と予期せぬイベントが続いたことに目を奪われがちですが、最大のポイントは1981年以来続いてきた長期金利の下落トレンドが終わったこと、さらにはソ連の崩壊により誕生したグローバリゼーションの流れも、米中新冷戦が始まったことで変調の時を迎えたことだと思っています。こういう時期は、目先の変化に惑わされるよりも、もっと本質的な視点、さらには長期的視点で企業成長を見直す、まさに長期投資家にとっての絶好の機会だと思っています。

大きく金融マターから話が逸れて恐縮ですが、最近私が興味を持った内容についてご紹介させてください。私自身、奥出雲の小さな自然史博物館の理事長を仰せつかっている立場上、宇宙の歴史や、生物の進化の歴史など、随分と浮世離れしたテーマに触れる機会が多々あります。一見、企業経営とは無縁に見えるこれらのテーマですが、生物の進化などは、環境の変化に対して、生物がどのように対応して成長して来たか、あるいは対応できずに絶滅して来たかという、正に経営の教材の宝庫だと言っていいほど面白い内容があるのです。

そんな40億年近い地球の生物の歴史の中で、私が最大のイベントだったのではと思うのが、今から20億年ほど前から始まったミトコンドリアとの合体です。もともと我々の先祖は糖分を分解し乳酸に変換する「解糖」という方法でエネルギーを得ていました。いわゆる「発酵」と同じメカニズムです。その後、次第に光合成によりエネルギーを得る生物が出現し、それらが出す酸素の猛毒性に我々の先祖は苦しみます。ところが、その猛毒の酸素を利用して、解糖という方法よりも18倍も効率良く乳酸からエネルギーを生成する生物が出現します。それがミトコンドリアでした。我々の先祖は、その効率の良さに気づき、そのミトコンドリアと合体しようと試みます。しかし、もともと酸素が大嫌いな先祖と、酸素が大好きなミトコンドリアが合体しようとするわけですから、想像以上の困難が待ち受けていました。驚くべきことになんと約8億年もの時間と試行錯誤を繰り返し、ようやく今から12億年前にその合体を成功させたのです。そして、その苦労の効果は絶大でした。効率的なエネルギー源を手にした生物は、単細胞から、多細胞になり、より複雑に、多様化しかつ巨大化していったのです。また、現在の動物や植物の個々の細胞には、膨大な数のミトコンドリアが、本体とは異なる遺伝子をもって存在していますが、このような離れ技を実現するため、生物は雄と雌に別れ、生殖により次世代を生んでいく仕組みを創造します。これにより老いや死という概念も誕生したのです。これらの大革新により、我々の先祖はそれまでとは明らかに次元の異なる進化を、遂げることになります。

企業経営においてもM&Aという手法は、今や無くてはならない手段となっています。M&Aというと、お金の力で規模を拡大していくイメージがあり、確かにそのようなケースが多いとは思います。しかし、この生物の進化の歴史から導き出されるのは、異質な企業同士のM&Aこそ重要であり、それがその後の企業成長の大きな鍵であることです。
私が関連する眼鏡市場でも、現在圧倒的な存在感を示しているルックスオティカが、まさにその異質な合体によって急成長した企業です。もともとイタリアの一フレームメーカーに過ぎなかった同社ですが、レイバンをはじめとするブランド企業の買収、そしてアメリカ最大の眼鏡小売りチェーンのレンズクラフターの買収を筆頭に、世界各国のナンバーワン小売チェーンの買収に成功、さらにはやフランスの世界トップのレンズメーカー、エシロールとの異質な合弁を成功させ、競業他社を大きく引き離す企業に成長しています。国も、業種も、扱う商品も、そして企業文化までも大きく異なる企業との合体は、大きな困難が伴ったと思いますが、それを克服することで大きな成長を得たのです。
企業がどんな目的で、どれだけの思いで困難なM&Aに挑戦しているかも、長期の成長企業を見つけ出す大きなファクターなのかもしれませんね。

多根幹雄
執筆者
多根幹雄
株式会社パリミキホールディングス
代表取締役会長
スイス、ジュネーブに1999年から9年間駐在し、グループ企業の資金運用を担当してきました。その間、多くのブライベートバンクやファミリーオフィスからの情報により、世界18カ国100を超えるファンドマネージャーを訪問。実際投資を行う中で、良いファンドを見極める選択眼を磨くことが出来ました。また当時築いたスイスでのネットワークが現在の運用に大いに役立っています。また、大手のメガネ専門店チェーンの役員として実際の企業の盛衰も経験し、どんな時に組織が良くなり、また悪くなるかを身をもって体験しました。そこから、どんな企業やファンドにも旬や寿命があるというのが持論です。その為、常に新しいファンドを発掘し、旬のファンドに入れ替えを行うことで、長期で高いパフォーマンスを目指しています。

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