オリンピックに学びたいこと

2021年08月06日

コロナ禍で一年延期となった東京オリンピック。デルタ株による感染症の拡大や、延期や無観客による費用負担の増大により、否定的な意見が広がったのは残念なことでしたが、若い日本人選手が活躍している姿を見るのはとても気持ちがいいものですね。

この近代オリンピックですが、どのように始まったかはご存じでしょうか。古代オリンピックが393年を最後に終焉を迎えてから1500年近くが経ったころ、ギリシャのオリンピアの遺跡が発見されます。さらにドイツの考古学者シュリーマンが「トロイの遺跡」を発掘しました。

これらに刺激されヨーロッパで古代文化への関心が高まっていき、イタリア系フランス人のピエール・ド・クーベルタン男爵がオリンピックの復興を提唱したのも、このような時代でした。彼自身も教育者として、またラガーマンとして、教育におけるスポーツの効用を強く信じていましたが、歴史書の中に古代ギリシャの「オリンピア大祭」の記述を見つけて感銘を受け、オリンピックの再興を思い立ちます。おそらく開催に向けて、多くの困難に直面したと思いますが、92年から活動を開始し、ついに1896年、第1回の近代オリンピックがギリシャのアテネで開催されることになります。クーベルタン.jpg

クーベルタンがオリンピック再興により目指したものは、オリンピック憲章にあるように「スポーツを通して心身を向上させ、さらには文化・国籍など様々な差異を超え、友情、連帯感、フェアプレーの精神をもって理解し合うことで、平和でよりよい世界の実現に貢献する」ことでした。つまりスポーツを通じて平和な世界を実現しようとしたわけで、けっこうロマンチストだったのですね。

アテネで開かれた第1回大会に参加した国はわずか14ヶ国。参加選手は全員男子だけで241人でした。それから125年を経て、今回の東京大会では参加国および団体は205、参加選手11,000人を超える大会にまで発展して来ました。もちろん、規模の拡大の中で、商業主義が浸透したり、様々な利権が発生したりと、クーベルタンの理想とは程遠いマイナスの面も助長されてしまいました。実際、彼は1927年の演説の中で「もし輪廻というものが実際に存在し100年後にこの世に戻ってきたなら、私は自分が作ったものをすべて破壊することでしょう」と述べています。最後は1937年9月2日、スイス、ジュネーブのグランジュ公園を散歩中に急逝しました。家族に恵まれず、寂しい晩年だったようです。グランジュ公園は私のマンションの近所で、良く犬を連れて散歩に行った美しい公園です。最近ではバイデンとプーチンの対談が行われた場所としても前回ご紹介しました。

テレビでオリンピックを観戦しながら、熱狂している世界中の人々の多くはクーベルタンの存在も、その名前も知らないかもしれません。私自身もスイス駐在時代にローザンヌのオリンピック博物館を少なくとも二度は訪れ、彼の存在を知ったはずでしたが、名前まで覚えていませんでした。また、現在のオリンピックは彼の理想としたオリンピックとかけ離れているかもしれません。しかし、それでも世界中の多くの若者が、オリンピックを目指し、命を懸けて頑張っていることは素晴らしいことだと思います。

オリンピック大会やIOCという組織より、世代を超えて、国境を越えて彼の理想を実現しようとしている人々がより広がりを見せていることこそ、オリンピックから学びたいことです。「時間とともに良くなる」長期投資の理想の姿がここにもあるかもしれません。

 

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多根幹雄
執筆者
多根幹雄
株式会社パリミキホールディングス
代表取締役会長
スイス、ジュネーブに1999年から9年間駐在し、グループ企業の資金運用を担当してきました。その間、多くのブライベートバンクやファミリーオフィスからの情報により、世界18カ国100を超えるファンドマネージャーを訪問。実際投資を行う中で、良いファンドを見極める選択眼を磨くことが出来ました。また当時築いたスイスでのネットワークが現在の運用に大いに役立っています。また、大手のメガネ専門店チェーンの役員として実際の企業の盛衰も経験し、どんな時に組織が良くなり、また悪くなるかを身をもって体験しました。そこから、どんな企業やファンドにも旬や寿命があるというのが持論です。その為、常に新しいファンドを発掘し、旬のファンドに入れ替えを行うことで、長期で高いパフォーマンスを目指しています。

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