金物語 〜これから金はどうなるのか

2025年12月09日

金本位制の終焉と信用通貨の時代

かつて世界は「金本位制」という仕組みを持っていました。

各国通貨は金によって裏付けられ、その価値が保証されていたのです。

しかし20世紀半ばを過ぎると、世界は次第に金本位から離れ、ついに1971年、アメリカのニクソン大統領による金とドルの交換停止をもって、その時代に終止符が打たれました。

それ以来、私たちが使う通貨は、国家の信用の上に成り立つ「信用通貨」となったのです。

 

イギリスによる金売却という歴史的転換点

こうした中で金は、「過去の資産」と見なされ、一時的に関心が薄れました。特に1980年代から1990年代にかけては金価格が長期にわたって低迷し、多くの国や投資家が金に対して否定的な見方を持つようになりました。

その背景には高利回りの債券市場、そしてユーロの登場による通貨体制の変化が密接に絡んでいます。

その象徴的な出来事が、1999年から2002年にかけてのイギリスによる金の大量売却です。

 

当時の英国政府は、金を売却して得た資金を、利回りのある外貨建て資産(特にドルやユーロ建て債券など)に転換することで、国家の外貨準備を効率的に運用しようと考えました。

金は利息を生まない「非生産的な資産」と見なされ、過去20年で最も低い水準の金価格で売却が実施されました。

後にこれが「ゴードン・ブラウンの底値売り(Brown’s Bottom)」と皮肉られるほど、その後の金価格は急騰することになります。

 

金の復活~リーマンショック、コロナ、戦争

そして時代は変わります。

2008年のリーマンショックを契機に、金は再び注目され始めました。

金融システムへの不安、インフレ懸念、各国の中央銀行による大規模な危機対策として金融緩和政策が進む中で、貨幣の価値が下がり、価値の変わらない安定した金は再評価されるようになったのです。

 

さらに2020年の新型コロナウイルスのパンデミック対策による各国の大規模な金融緩和、2022年にロシアがウクライナへ侵攻後、アメリカによるロシアのドル資産凍結などもあり、中央銀行や投資家は再び金に目を向けました。

とりわけ、ドルやユーロへの信頼が揺らぐ中で、金が見直されています。

 

現在では、世界の外貨準備に占める金の比率は約15〜20%前後とされていますが、今後さらに高まると予測されています。

中央銀行による金の購入は過去最高水準にあり、米ドルやユーロなど法定通貨への依存を減らそうとする国々が増えているからです。

 

金の未来:信頼と安心の象徴として

このような状況において、多くの専門家は「金の価値が上がっているのではなく、通貨の価値が下がっているだけだ」と指摘します。

各国の財政が不安定さを増す中、将来に向けて、金はますます重要な資産として位置づけられるでしょう。もちろん、短期的には価格の調整や下落もあるかもしれません。

しかし、長い年月で見ると上昇基調を維持する可能性が高いと考えられています。

 

「金物語」はまだ終わりません。

人類が「信用」に疑問を抱くたびに、金はその静かな輝きをもって、信頼の象徴としての役割を果たし続けるのです。

多根幹雄
執筆者
多根幹雄
株式会社パリミキホールディングス
代表取締役会長
スイス、ジュネーブに1999年から9年間駐在し、グループ企業の資金運用を担当してきました。その間、多くのブライベートバンクやファミリーオフィスからの情報により、世界18カ国100を超えるファンドマネージャーを訪問。実際投資を行う中で、良いファンドを見極める選択眼を磨くことが出来ました。また当時築いたスイスでのネットワークが現在の運用に大いに役立っています。また、大手のメガネ専門店チェーンの役員として実際の企業の盛衰も経験し、どんな時に組織が良くなり、また悪くなるかを身をもって体験しました。そこから、どんな企業やファンドにも旬や寿命があるというのが持論です。その為、常に新しいファンドを発掘し、旬のファンドに入れ替えを行うことで、長期で高いパフォーマンスを目指しています。

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