最近、日銀の市場介入が噂されるほど、ドル円相場が大きく揺れ動いています。この先、どのような展開が待っているのでしょうか。投資だけでなく、日常生活や物価にも大きな影響を与えるこの問題には、十分な関心を寄せずにはいられません。
10年ほど前の2012年、ドル円は70円台に達し、日本の輸出企業は円高に苦しんでいました。しかし今日、円の価値は半減し、逆に円安による影響が懸念されています。メディアは常にドラマティックな見出しを求められますが、その中には1ドルが200円や300円に達すると予測する専門家もいるようです。しかし、これらの悲観的な予測に振り回されることなく、長期的視点で冷静な判断が必要です。それでは、この円安の構造を論理的に分析してみましょう。
今日の円安は主に三つの要因から成立していると思われます。まずは良く言われる金利差の問題です。2013年にスタートしたアベノミクスの異次元の金融緩和の影響で、日本は長期にわたって低金利が継続。一方、コロナ禍による経済対策による好景気や、ウクライナ戦争の勃発などで、世界でインフレが再燃。その火消しにアメリカのFRBが金利を上げ続け、日米の金利差が大きく開くことになりました。その為、高い金利を求めドルが買われているということです。
次に2012年までの円高で、日本の企業の海外への移転が加速。日本から海外への投資が増加したため、円が売られる展開に。また、多くの生産設備も海外に移転したことで、貿易黒字から、慢性的な貿易赤字へ転換したという構造的変化もあります。さらに、アマゾンやグーグルなど、ネット系のサービス産業が急成長し、サービス収支も構造的に大幅赤字が定着。このような産業構造の大きな変化もあります。
それでは、最初の金利差の今後を考えてみましょう。アメリカはインフレが鎮静すれば金利を低下させるトレンドに入ります。一方、日本は金融緩和を解除する方向に動くでしょうから、金利は徐々にでしょうが上昇してくるでしょう。ですから長期的に金利格差は収縮に向かうことになります。
設備投資も、円安や、地政学的リスクの増大、また日本の魅力が再認識されているため、今後は海外企業も含め、日本の国内への投資が激増してくるでしょう。つまり、これも長期で見れば、円高への要因となります。
最後のサービス収支ですが、ネット系のアメリカ優位は当分揺るがないでしょう。しかし、日本へのインバウンドは年々増大していきます。そして、次第にその影響が大きく出てくると思います。そもそも世界的に旅行者の多い国は、エジプトやギリシャのように観光資源だけがあるところではなく、フランスのように、美味い食事、お洒落なお店、美しい自然があるところです。そのような国はリピーターが多くなり、結果として観光客が増大するのです。その点で日本はフランス以上にリピーターを満足させる魅力に満ちた国。今後は東南アジア地域が豊かになり、旅行者が激増するという地の利も考えると、日本への観光客はまだまだ増え続けるはずです。
というように円安なっていった三つの要因が今後は大きく転換していきます。このことを考えると、中長期的には超円安は是正されると考えるのが順当でしょう。さらに、ドル円を予測する場合、大事な視点があります。それは「アメリカサイドがどのような為替状況を望んでいるか」です。未だに国防の重要な部分をアメリカに依存している日本は、アメリカにとって最もコントロールしやすい国の一つです。ほとんどの場合、彼らが望む為替水準になっていくのです。
その点も含め、この秋予定されているアメリカの大統領選の行方も、為替に影響があるかもしれません。ちなみに四柱推命で二人の運勢をみると、「トランプの圧勝」のようです。「もしトラ」なら、間違いなく円高方向でしょう。しかし、仮にバイデンとなっても、穏やかな円高誘導が行われると思っています。なぜなら景気減速が進んでくると、アメリカはドル高よりも、ドル安を望むからです。
為替は資産運用において、とても大きな影響をもつ要素です。ただ、短期の変化ではなく、10年以上の長期での大きな流れをつかむことが寛容でしょう。