★ア ッ プ ル 「 ビ ジ ョ ン プ ロ 」 に 見 る 勝 ち パ タ ー ン の 変 化

2023年07月12日

アップルの時価総額が世界の上場企業で初めて3兆ドル(430兆円)を突破しました。これは東証上場企業の全時価総額合計の半分以上に相当し、日本のGDPにも匹敵する規模です。この驚異的な金額から、アップルの凄さが伝わってきます。

そして、アップルは6月に待望の新製品「ビジョンプロ」を発表しました。ビジョンプロは2024年初めに米国で発売予定であり、その内容はまだ明らかにされていませんが、まず驚かされたのはその価格でした。3499ドル(約50万円)からという高額設定であり、米メタの最上位機種の3倍以上にも相当します。「こんなに高い価格で本当に売れるのか」という懸念の声も聞こえてきそうですが、私はここに新時代の勝ちパターンの変化を感じました。

過去を少し振り返ってみましょう。冷戦の終結後、世界はグローバリゼーションの時代に突入しました。人々、モノ、資金、情報が自由に行き交う時代です。旧社会主義経済の30億人以上の貧困層が、労働者として我々と同じ市場で競争するようになりました。グローバリゼーションの本質は、世界を巻き込んだ大規模な価格競争の時代でした。さらにインターネットの進化と普及により、情報格差が縮小し、価格競争が加速しました。つまり、この時代の勝ちパターンは「最も安価な価格を実現すること」でした。それを達成するためには、経済の圧倒的なスケールが必要であり、その実現手段としてM&A(合併・買収)が多用されました。さらに、低金利時代の到来も重なり、企業は自身の成長を加速させるためにM&Aを活用し、規模を拡大し生産性を向上させる競争を展開しました。世界規模の価格競争のおかげで、私たちは冷戦終結後の約30年間で安価な商品やサービスを手に入れ、欲求をほぼ満たすことができました。

では、基本的な商品やサービスの欲求が満たされた人々が求めるものは何でしょうか?もちろん価格は依然として重要な要素ですが、安ければ安いほど良いというわけではありません。言い換えれば、「最も安価な価格を実現すること」はもはや勝利パターンではありません。このような変化を感じた出来事がありました。それはJR九州が2013年に導入した「ななつぼし」というサービスです。当時、多くの日本企業が価格競争に走り、中国に工場を進出させる時期でした。価格引き下げのニュースが溢れる時代でした。そんな中、JR九州は最低料金40万円という驚くべき価格でツアーを提供しました。この価格の高さから、応募があるのか不安視されましたが、予想を覆し、予約が数か月先まで詰まる状況になりました。これは言い換えれば、基本的な商品やサービスの欲求が満たされた人々が求めるものが「価格から価値」へと変化し、新しい勝利パターンが「最も高い価値を提供すること」へと移行していったと言えるでしょう。

しかしながら、このような高額な提供には多くの困難が伴います。顧客がその価格に見合うか、あるいはそれ以上の価値を見出さなければ成立しないからです。価格競争の場合は努力の方向性が明確であり、誰でも参入することができます。しかし、高度な付加価値の創造には正解が存在せず、数多くの選択肢があり、優れた感性が求められます。つまり、誰にでも実現可能なものではないのです。

今回のゴーグル型デバイスにおいても、349ドルでまずまずの製品を作れる企業は世界中に存在するかもしれません。しかし、3499ドルで顧客を満足させ、そして「欲しい!」と思わせる製品を作り出せるのは、現時点ではアップルだけかもしれません。

新しい勝ちパターンを持った次のアップルを、それぞれの分野で見つけ出すことも面白いでしょう。皆さんもぜひ挑戦してみてください。

多根幹雄
執筆者
多根幹雄
株式会社パリミキアセットマネジメント
代表取締役社長 運用統括責任者
スイス、ジュネーブに1999年から9年間駐在し、グループ企業の資金運用を担当してきました。その間、多くのブライベートバンクやファミリーオフィスからの情報により、世界18カ国100を超えるファンドマネージャーを訪問。実際投資を行う中で、良いファンドを見極める選択眼を磨くことが出来ました。また当時築いたスイスでのネットワークが現在の運用に大いに役立っています。また、大手のメガネ専門店チェーンの役員として実際の企業の盛衰も経験し、どんな時に組織が良くなり、また悪くなるかを身をもって体験しました。そこから、どんな企業やファンドにも旬や寿命があるというのが持論です。その為、常に新しいファンドを発掘し、旬のファンドに入れ替えを行うことで、長期で高いパフォーマンスを目指しています。

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