「市場は間違う?」

2022年10月12日

先日、日本コムジェストが15周年を迎え、そのパーティに行ってきました。コムジェストはクローバーがスタート以来お世話になっている運用会社で、現在もコドモ、特に浪花おふくろファンドの主力ファンドを提供していただいています。

コムジェストは1985年にパリに設立された独立系の資産運用会社で、創業者のジャン・フランソワ・カントンさんはベトナム系フランス人。もともと日本株のアナリストということもあり、大の日本ファンで知られています。特に有名なのは、蒔絵などの豪華な装飾を施した日本の万年筆(ナミキコレクション)の世界的なコレクターということで、自費で立派な写真集まで出版されています。私の大好きな「オタク」系マネージャーの典型ですね。

ここの投資ポリシーは、端的に言うと「クオリティグロース企業への長期投資」です。長期的には株価は企業の利益に収れんされる、ということを確信していることから、持続的に高い利益成長が出来ると考えられる企業「クオリティグロース企業」に長期投資することで、長期的に高いリターンを低いリスクで獲得できると考えています。持続的な利益成長が可能だと考えられる企業は、他社には真似できないビジネスモデル、高い参入障壁を持った企業で、また景気循環に左右されにくい業種を選んでいるのも彼らの特徴です。まさに長期投資のお手本といったファンドですね。
よく彼らの投資実績として例に出されるのが、エシロールというフランスのレンズメーカーです。現在、イタリアのフレームメーカー、ルックスオティカと合併してエシロール・ルックスオティカとなっていますが、コムジェスト創業時から投資を行い、30年以上にもわたって現在も保有を続けています。彼らが投資を始めたころの世界のレンズ市場は、レンズの素材がガラスからプラスティックに移行し始めた時期であり、また、高齢者用のレンズも二焦点レンズから、境目のない累進レンズに変わるという、大きな変革の時期にありました。当時はまだドイツメーカーが強い時代でしたが、この二つの大きな変化を上手くとらえたエシロールは、その後大きく成長することになります。実際、彼らが投資を始めたころ5ユーロに満たなかった株価でしたが、その後ぐんぐん利益成長し、何度か市況の影響を受けて株価が下落した時期もありましたが、今や150ユーロを超え、13兆円を超える時価総額までになっているのです。まさに「クオリティグロース企業への長期投資」ですね。

先日のコムジェスト日本法人の設立15周年記念パーティでも、社歴の長い順番に社員が紹介され、長期で貢献してくれた社員をたたえる姿から、彼らの長期の投資スタンスがうかがわれ、とても良い式典でした。

そんなコムジェストさんですが、先日も我々のセミナーにご登壇いただいた日本株のファンドマネージャー、リチャードケイさんのコメントは苦悩と、理不尽な市場への怒りに満ちたものでした。彼らは株価よりも、EPS(一株当たりの利益)がどれだけ成長するかに注目して投資を行っています。実際、彼らが選んだ企業は予想通りの利益を上げているのですが、株価が上がっていないというのです。しかし、それでも彼らの投資スタンスは変えないという強い信念に、我々も安心した次第です。

ここ数年、短期に高いリターンを上げる投資にお金が集中し、特に次代の「ユニコーン」として期待される企業に多額の資金が集まりました。彼らのビジネスモデルは、膨大な投資資金を使って、早期に市場を占拠し、それにより最終的に圧倒的な利益を獲得することを目指す方式です。売上の伸びが急激であるため投資家の期待を刺激し、さらに株価が上がる、その結果さらに莫大な資金調達ができる、それをまた市場獲得に投下するという循環で、驚異的な時価総額になっていきます。しかし、多くが赤字のままなのです。まさに投資というよりは投機ですね。

ただ、FRBがインフレ対策に血眼になり、長期の金融緩和に終止符が打たれる今日になって、少しずつ状況が変わりつつあります。今後、インフレ対策が落ち着いたとしても、今までのような超金融緩和、超低金利の時代にはならないでしょうから、投機家たちも夢からさめ、少しずつ冷静さを取り戻すでしょう。そうなると、本来の長期の利益成長が注目され、長期投資の時代になっていくと思います。そういう意味では、今の局面は、長期目線では絶好のチャンスといえそうですね。短期の「市場は間違う」からこそ、我々長期投資家にチャンスがあるのです。

多根幹雄
執筆者
多根幹雄
株式会社パリミキホールディングス
代表取締役会長
スイス、ジュネーブに1999年から9年間駐在し、グループ企業の資金運用を担当してきました。その間、多くのブライベートバンクやファミリーオフィスからの情報により、世界18カ国100を超えるファンドマネージャーを訪問。実際投資を行う中で、良いファンドを見極める選択眼を磨くことが出来ました。また当時築いたスイスでのネットワークが現在の運用に大いに役立っています。また、大手のメガネ専門店チェーンの役員として実際の企業の盛衰も経験し、どんな時に組織が良くなり、また悪くなるかを身をもって体験しました。そこから、どんな企業やファンドにも旬や寿命があるというのが持論です。その為、常に新しいファンドを発掘し、旬のファンドに入れ替えを行うことで、長期で高いパフォーマンスを目指しています。

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