インフレ時代の投資戦略

2022年07月11日

毎日のように値上げのニュースが報道されるようになりました。私などは子供時代にインフレを経験し、当時大人があいさつの枕詞に「諸物価高騰の折…」と言っていた時代を経験していますが、デフレ時代しか知らない若い世代にとっては正に異次元の世界でしょうね。

短期的には、生産国におけるコロナによる供給体制の混乱と、先進国における景気刺激策と需要の急回復、それにロシアのウクライナ侵攻、さらには上海という巨大都市の長期封鎖と、続々と想定外の事態がおこった為に、極端なインフレとなっているかもしれませんが、長期的にみても、世界規模での分業と大価格競争で価格破壊をもたらしたグローバリゼーション時代の終焉を考えると、これからの日本は確実にインフレの時代になりそうです。それに加えて、過去のインフレ分を考慮すると現在の1ドル135円のレベルが50年前の300円程度と同じ水準の超円安ですから、まだまだ値上げは続きそうですね。

そんなデフレからインフレの時代になるわけですから、企業戦略も180度変更することが求められます。確かにインフレ圧力からの生活防衛から、代替の可能な分野ならさらに価格志向が強まる分野もあるかもしれませんが、低価格を売りにしている企業でもコストアップからの値上げは不可避で、低価格を維持するのは益々困難になるでしょう。

また、昭和の時代のように、基本的なモノやサービスが大きく不足し、価格も高かった時代なら価格破壊は有効ですが、グローバリゼーションによって基本的なモノやサービスが満たされ、価格も極限まで絞り込まれた令和の時代には、むしろ「価格を上げることのできる企業かどうか」が命運を分けると思っています。

実際、ルイ・ヴィトンやエルメスなど高級ブランドはどんどん価格を上げて業績も向上させています。(彼女や奥さん、あるいは自分へのプレゼントを、高いからといって安いブランドに替えたらどうなるか想像してください)例えばディズニーランドが値上げしたから行くのを止めたという話はあまり聞いたことがありません。一方、デフレ時代に価格を武器に高成長してきた企業は、コストアップで価格維持が難しくなり、かと言って値上げをしていくと、顧客離れで苦しむことになります。

結局、「絶対的な価格」というよりは、「相対的な価格が重要」になり、その為にはどれだけお客様にとって意味ある魅力的な価値を創造できるかが決め手になります。「効率追求企業」から「価値創造企業へ」、長期投資における企業選別も大きく見直しが迫られそうです。

さて、そんな時代の投資戦略について考えてみましょう。インフレ時代、金利上昇時代の投資戦略としてまず考えなければいけないのは、当然のことながら、キャッシュは大きくダメージを受けるのでダメということです。日本の個人金融資産の約半分の1000兆円がほぼゼロ金利の預貯金のままですが、いよいよこれを動かさないといけない時代になるということですね。

では、どこに投資すればいいのでしょうか。今までのように金利が長期的に下落してきた過去40年とは違い、株も債券も単純に上がる時代ではありません。また、海外資産に投資しようと思っても、今の超円安水準では逆に円高になるリスクも大きくなっています。企業戦略が180度変わったように、投資の世界でも国内外の株と債券に4分割のパッシッブ投資だけしておけばいい時代は完全に終わりました。

先の企業戦略で述べたように、本当に意味ある価値が創造でき、高くても買い手が逃げない付加価値を提供できる企業、さらに他の企業が真似できない高い参入障壁を持つ企業こそ、狙い目だと思います。そんなインフレ時代の成長基調を厳選できる優秀なファンドマネージャーをこれからも探して参りたいと思います。いよいよファンドの本当の実力が試される時代になりました。

多根幹雄
執筆者
多根幹雄
株式会社パリミキホールディングス
代表取締役会長
スイス、ジュネーブに1999年から9年間駐在し、グループ企業の資金運用を担当してきました。その間、多くのブライベートバンクやファミリーオフィスからの情報により、世界18カ国100を超えるファンドマネージャーを訪問。実際投資を行う中で、良いファンドを見極める選択眼を磨くことが出来ました。また当時築いたスイスでのネットワークが現在の運用に大いに役立っています。また、大手のメガネ専門店チェーンの役員として実際の企業の盛衰も経験し、どんな時に組織が良くなり、また悪くなるかを身をもって体験しました。そこから、どんな企業やファンドにも旬や寿命があるというのが持論です。その為、常に新しいファンドを発掘し、旬のファンドに入れ替えを行うことで、長期で高いパフォーマンスを目指しています。

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