ラマルクの進化論と企業イノベーション
2019年10月09日
進化論といえばダーウィンが有名ですが彼が1859年に「種の起源」を発表するかなり以前に進化論を提唱した人がいました。その人は、フランス人のジャン・バティスト・ラマルク。彼は1809年に「動物の哲学」を発表。当時はまだ天地創造説が信じられており、この地球上の生物はすべて神がそのままの形で創造されたというように、皆が思っていた時代でした。我々が彼の名を知らないのは、その後まだまだ完全でなかった彼の理論の矛盾を指摘されたこともありますが、当時の宗教界を頂点とする支配者階級の人間たちにとって、聖書と矛盾する理論はとても受け入れ難く、まったく評価されなかったことがあると思っています。実際、彼はナポレオン一世やそのころの権力者に迫害を受けながら、それでも進化論を提唱し、不遇の一生を送ったようです。
彼が提唱した進化論には、二つの柱がありました。ひとつは「生物は、単純なものから複雑なものへと連続的に進化する」。もう一つが「ある器官をよく使えば発達し使わなければ委縮する。この変化がオスとメスで共通なら、その変化は子供に遺伝する」。特に後者を「用不用説」といい、キリンの首が長いのは、高い枝の葉を食べようといつも首を伸ばしており、そのような生活を何千年も繰り返していたため、と説いたキリンの例で有名です。
私が学校で教わった進化論は、ダーウィン以降の「自然淘汰」や「突然変異」でしたが、そもそも進化が「突然変異」で起こることには疑問を持っていました。例えば「擬態」を考えてみてください。昆虫や動物が葉っぱや木の枝、岩などに化けることですが、はたして単なる偶然におこる「突然変異」でそんなこと実現するのでしょうか。そこには命からがら敵から逃げながら「葉っぱになりたい!」という強烈な意思が何代も何代にもわたってあったように思います。ラマルクのキリンのケースも「もっと首が長ければ!」という願いの歴史があったのでしょう。つまり生物の進化は、生物の強い思いの蓄積がもたらしてきたものだと思うのです。そういう意味でラマルクの進化論の方がしっくりくると思われませんか。
私は企業が進化するメカニズムも同じではないかと思っています。前回の月次レポートで250年間続いてきた大量販売、大量消費時代の終焉についてお話ししましたが、そういう時代だけに企業も進化すること、イノベーションを起こすことに待ったなしの時代になりました。これを実現するには単に組織の在り方や、経営論を論じるだけでは不可能に思えます。
例えばアップルのケースを考えてみましょう。「パソコン」「アイポット」「アイフォン」と、次々に新しい概念の製品をこの世に生み出し、新しい市場を創造し、明らかに世界を変えて来ました。そして、世界中の様々の人々が彼らの成功を分析して来ました。しかし、間違いなくこれらの進化を実現したのは、スティーブ・ジョブズの「世界を変えたい」という強い意思だったというのは皆様も異論がないでしょう。その精神的なエネルギーこそが企業の進化の絶対条件のような気がします。そのようにみると、今のアップルに以前ほどの精神的エネルギーが感じられなくなったのはちょっと残念な気もしますね。
いずれにしても、長期投資家が求める成長企業にはそんな熱い思いの経営者や社員が不可欠です。その思いは我々が手にする商品やサービス、あるいは広告などにも潜んでいるはずです。あるいはオーラが出ているかもしれません。日々の生活の中で、感度を研ぎ澄ませながら、そんな起業家たちのエネルギーを感じて、これからの成長企業を見つけるのも楽しいですね。
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