今から30年以上前のころ、大阪のある総合病院の院長が初対面でお会いした際に開口一番おっしゃったのが、「多根さん、医学というのは生物学なのですよ。」突然の言葉に思わず、どう反応していいか惑ってしまったため、せっかくの内容を聞きそびれてしまったのが返す返すも残念でしたが、一代で大阪を代表する総合病院を築きあげたやり手の印象とは程遠い、院長の自愛に満ちたやさしい笑顔と、この言葉が妙に印象に残っていました。
あれから30年を経て、最近その意味、大きさが少しずつわかってきたような気がします。
その後、医療もすっかり専門家、高度化し、そのせいか我々もいつの間にか、医療に対する過大な依存心が生まれ、病気になると医者や薬の世話にならないと治らないと思うようになってしまいました。特に高齢になるとピルケースに常備薬を沢山携帯するのが日常化し、薬がないと生きていけないという人も多いような気がします。病院に行くと、いろんな機器でデータを取られ、中には患者に向き合うより、ほとんどパソコンを見ながら問診している医者も随分と増えてきました。そしていよいよ臨終に際しては、沢山のパイプにつながれ、様々な薬品が体内に注入され、とても「眠るように」あの世に行けない世の中になっています。まるで、我々が生き物ではなく、モノに近い扱いになっているような気がするのは私だけでしょうか。随分「生物学」とは程遠くなってしまったのが現在の医学のように思います。
地球に生物が誕生してから約38億年もの時間が経過しています。その間、生物の生存にとって困難で致命的な危機も多々あったはずです。そんな超長期を、我々の祖先は医療も薬もなく、自分の力で生き延び、子孫を残して来ました。ですから、病気の際の様々な症状、例えば熱が上がる、咳が出る、血圧が上がる等々もほとんどが病気を治すための体の作用だったりします。また、自分だけの体だと思っているものも、実際は微生物との共生の場なのです。最近注目されているのが腸内細菌。腸内にはなんと約1000種類、約100兆個もの腸内細菌が存在し、我々の健康維持に重大な役割を果たしてくれています。意外と生物は弱肉強食ではなく、共存とバランスで成り立っているのですね。
また、進化の過程で単細胞の時代がなんと約30億年もあります。単細胞生物ですからまともな感覚器官を持たない中で生き延びてきたわけです。脳が誕生するのが約5億年前ということですから、我々の祖先は生命が誕生してからの気の遠くなるような期間のほとんどの生死にかかわる重要な判断を、「考える」よりも「感じる」ことでしてきたことになります。ですから我々の「感じる」力は結構すごいのです。
コロナも三年目に突入し、そろそろ収まってくれるのではと期待があるものの、中国上海では再びかなり厳格なロックダウンが行われるなど、まだしばらく混乱が続きそうな様相です。中国といえば、新型コロナの感染が広まった当初は政府の強制力を駆使し、ウィルスの広がりを抑えて世界でも高い評価を得た国でした。現代の医学で「考える」と正しい対処のように思えますが、生物学的に「感じてみる」と違って見えてきます。
感染が収まる為には、ウィルスが変異を繰り返し、最終的に無毒化して人類と共存できること、それに、人体の方も免疫がある一定以上の人間の間に広まり集団免疫が確立すること、この両方の歩み寄りが必要でしょう。ですから、自然の力を排除するのではなく、上手く活かしながら、被害が少なくなるようにコントロールしていくのが正しい対策のように思います。
医学だけでなく、企業の経営や分析にも生物学的なアプローチはとても有効だと思います。長期投資にふさわしい企業の発掘にも分析して「考える」だけではなく、「感じる」ことを駆使してみてはいかがでしょうか。「投資も生物学」なのかもしれませんね。
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