日本車に追い風?――トランプ関税・円安・そしてEVブームの終焉

2025年08月12日

トランプ関税がもたらす新たな構図

2025年、トランプ大統領の関税政策が導入され、日本の自動車産業に緊張感が走りました。

当初、輸入車や部品に最大25%の関税が課されるという発表は、各国メーカーにとって大きな負担となるかに見えました。

結局、日本と欧州、その他同盟国に対しては15%で着地しましたが、日本の自動車メーカーの業績予想の大幅な下方修正が続いています。

日本車は大丈夫なのでしょうか?

 

まず、意外に議論の対象になっていないのに重要なものが為替です。

仮にこの関税が適用されても、現在の円安水準――1ドル=150円前後――がもたらす価格優位を考えると、日本のメーカーにとってはむしろ有利な状況とも言えます。

2010年代の為替水準と比較すれば、20〜30%程度の輸出競争力が自然についてくる構図です。

 

逆に、ユーロ高が進行する中で欧州勢は価格転嫁が難しく、米市場での利益確保に苦慮しています。

また、皮肉なことにアメリカの自動車メーカーは海外へ生産拠点を移しており、特にGMは海外比率が約50%もあることから関税の影響を大きく受けそうです。

一方、トヨタやホンダなど日本の主要メーカーは、すでに米国南部に強固な生産拠点を構築済みであり、関税の影響を最小化できる体制を整えているのです。

 

EVシフトの本質――欧州による“ハイブリッド潰し”

そもそも、現在のEVシフトには、欧州の政治的・産業的な意図が色濃く反映されています。

2000年代、トヨタのハイブリッド技術(HV)は、欧州メーカーにとって明確な脅威でした。

HV市場では完全に出遅れた彼らは、「クリーンディーゼル」で対抗しました。

実際私がスイスにいた2000年代初頭は、ディーゼルのSUVがエコカーとして大人気でした。しかし、2015年のディーゼルゲート(VW排ガス不正)によって彼らの戦略は破綻してしまいます。

この失敗を埋め合わせるために、欧州が新たに掲げたのがEVです。

HVを「過渡技術」、EVを「最終解」と位置付けることで、トヨタに先行されていた土俵を“仕切り直した”とも言えるのです。

 

EVブームの終焉

ところが、現在そのEV戦略が足踏み状態にあります。

米国をはじめとする主要市場では、EV販売が伸び悩み、インフラ整備やバッテリーの不安が顕在化してきました。

中国経済の悪化から、供給過剰のEVの価格は崩壊し、レッドオーシャン化が進んでいます。

 

そもそも地球環境問題がクローズアップされる中注目されたEVですが、製造過程では膨大なCO2を排出し、バッテリーも年々性能が劣化していった挙句、そのバッテリーが巨大な産業廃棄物になってしまうという、およそエコとは縁遠い存在ということが次第に明らかにされてきました。

そんな中、消費者にとって「燃費がよく、充電不要で、信頼性が高い」ハイブリッド車が現実的な選択肢として再評価されているのです。

 

 

第二の黄金時代を築くために

日産を筆頭に、日本の自動車メーカーも苦戦しているような印象を受けますが、為替、政策、産業構造、そして技術的蓄積――これらすべてが今、日本の自動車産業にとってプラスに働いているのです。

EVという「欧州のゲームチェンジ」に耐え、逆転の地歩を築きつつある今こそ、日本の自動車産業にとって第二の黄金時代の幕開けとなるべき時なのかもしれません。

 

多根幹雄
執筆者
多根幹雄
株式会社パリミキホールディングス
代表取締役会長
スイス、ジュネーブに1999年から9年間駐在し、グループ企業の資金運用を担当してきました。その間、多くのブライベートバンクやファミリーオフィスからの情報により、世界18カ国100を超えるファンドマネージャーを訪問。実際投資を行う中で、良いファンドを見極める選択眼を磨くことが出来ました。また当時築いたスイスでのネットワークが現在の運用に大いに役立っています。また、大手のメガネ専門店チェーンの役員として実際の企業の盛衰も経験し、どんな時に組織が良くなり、また悪くなるかを身をもって体験しました。そこから、どんな企業やファンドにも旬や寿命があるというのが持論です。その為、常に新しいファンドを発掘し、旬のファンドに入れ替えを行うことで、長期で高いパフォーマンスを目指しています。

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